第一線の専門家に聞いてみた!再エネに「未来」はある?
持続可能な社会を実現するため、再生可能エネルギー(再エネ)の普及・拡大は、市民一人ひとりが向き合うべき暮らしの課題です。そのなかで生活協同組合(生協)には、どんな役割があるのか。そして、電気を使う側の市民は、何を知るべきなのか。再生可能エネルギーの専門家にお聞きしました。
- 山家公雄さん (エネルギー政策研究所所長、元京都大学大学院経済学研究科特任教授)1956年山形県生まれ。東京大学経済学部卒業後、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)で電力、物流、鉄鋼、食品業界などを担当する要職を歴任。金融や産業調査の経験を生かし、国際的視野から日本のエネルギー政策、電力システム改革と再エネ主力電源化、地域エネルギーのビジネスモデルを調査・研究している。著書に『再生可能エネルギー の真実』(エネルギーフォーラム)など。
再エネが広がれば電気代は下がる
―― 再生可能エネルギーを取り巻く世界の現状について、お聞かせください。
地球温暖化に伴う自然災害のリスクや、電力資源の枯渇を考えても、世界的には再エネへの依存を大きくするしかありません。日本のエネルギー政策も、2040年度の温室効果ガス73%削減(2013年度比)の目標を達成するためには、再エネが不可欠。そのためには何よりも、再エネのさまざまな技術を蓄積し、技術力の向上と発電コストの削減をはかることが必要です。そのための環境整備も進んでいます。太陽光パネルや蓄電池は安くなっていますし、電気自動車も普及しています。再エネの可能性はまだまだ広がるはずです。
―― 市民の目線に立つと、再エネのどこに可能性があるとお考えでしょうか。
再エネが広がれば、それだけ技術力は高まり、発電コストも安くなる。それが電気代にも関わっていきます。再エネが広がれば電気代も下がる。世界では多くの国で再エネが最も安くなっています。とくに太陽光発電は、燃料費がかからず、再エネのなかでもポテンシャル(潜在能力、導入可能性)が高いので、脱炭素と発電コストの面でも評価できます。軽くて設置しやすいソーラーパネルも増え、一般家庭でも導入しやすくなってきました。
再エネの最大活用が安全保障に
―― 山家さんが書かれた論文やレポートを読むと、「再エネは国益」との印象的な言葉がありました。
海外で戦争が起きたり、異常気象や自然災害が相次ぐと、原油・ガスの価格が高騰し、物価高を引き起こします。原油・ガスを海外に依存する日本は、それだけ安全保障が脅かされるわけです。何らかの世界的有事が起きたら、火力発電に必要な化石燃料は輸入できない事態になることも。日本で再エネを増やし、電力の国産資源を高めることが安定資源の調達、安定供給の実現になる。脱炭素とエネルギーの安定供給を目ざすのであれば、電力の国産資源、すなわち再エネの推進しかありません。再エネは安全保障であり、国益と言えるわけです。
―― いっぽうで、再エネに対するネガティブな声も少なくありません。
私がインターネットに再エネを評価する記事を書くと、コメント欄に批判が書き込まれます。いっぽうで、「いいね」をクリックしている読者もかなりいます。実際は、再エネが必要だと理解している人のほうが多いと考えられます。現に小売事業者・大手需要家レベルでは、再エネの価値に注目する動きが高まっています。「FIT非化石証書」(※1)の取引量が、日本で急増しているのはその現われです。データセンターなどで電力需要が増えていくなかで、脱炭素電源(※2)の導入拡大はいよいよ待ったなしになりました。資源エネルギー庁もようやく、再エネの普及と拡大に本気になってきました。
用語解説 |
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FIT非化石証書(※1)
脱炭素電源(※2)
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―― 電力の国産資源という視点で、日本のどこに可能性があるのでしょうか。
資源エネルギー庁の「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」では、火力41%、再エネ36~38%、原子力20~22%、水素・アンモニア1%としています。その実現のためには、太陽光以外の再エネ、風力、水力、地熱、バイオマスを増やす必要があります。日本には豊かな自然がありますから、活用すれば実現可能だと思います。こうした発電資源は、だいたい地方にあります。具体的には、北海道、東北、九州などです。再エネのポテンシャルを考えると、太陽光と風力の占める割合がどうしても高くなります。その意味でも、とくに期待できるのが洋上風力発電です。陸上風力発電もありますが、発電量のボリュームを考えると、ポテンシャルが高いのは洋上風力です。日本は島国で海に囲まれており、世界第6位の広大な排他的経済水域(EEZ)を擁していますから。
再エネ推進国のオーストラリアでは?
―― オーストラリアは、再エネ推進国として、参考にすべき点が多いと聞きました。
オーストラリア政府は、2030年の再エネ電力比率82%を掲げ、現状の石炭(火力)を再エネ・蓄電池に代える取り組みを続けています。エネルギー政策も、太陽光を主軸としたインフラ整備が進み、有力な再エネのベンチャー企業も生まれています。
―― 再エネに対する市民の意識も、日本より高いように感じます。
そうですね。電力会社のプランを利用するにしても、自分で発電・売電がコントロールできるプランに人気があります。スマホのアプリなどで最新の市場価格を知り、太陽光で発電した電気を安い時間帯に使い、高いときに売る。自らマネジメントできるプランです。電力会社にすべて任せるプランもありますが、それだと逆に市民の側が満足できないそうです。
―― それはすごい! 再エネの意義をアピールするわたしたちも見習いたいものです。
電気小売事業者としての生協の役割と責任
―― 日本に再エネを普及させる意味で、生協という組織の役割、強みもあるはずです。
アメリカのカリフォルニア州では、「コミュニティ・ソーラー」と称する市民電力(※3)のネットワークが強く、大手電力会社と肩をならべる存在になっています。日本の市民電力にも、その可能性があります。本来であれば、東京都をはじめ首都圏の自治体が、地方の市民電力や再エネをもっと支援すべきです。しかし、現実はそうなっていません。だからこそパルシステムでんきのような生協の電気小売事業者が、市民電力や立地自治体と連携することが大切です。発電事業者と電気需要者(市民)をつなぐ(仲介する)役割があるわけです。
用語解説 |
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市民電力(※3)
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―― パルシステムでは、発電産地への支援に取り組んでいます。ただ、再エネの意義やメリットを組合員にわかりやすく伝えきれておらず、頭を悩ませているんです。
それはもったいないですね。エネルギー問題に対する、市民一人ひとりの意識を高めていくためにも、有益な情報をさまざまな手段で、発信し続けていくことが不可欠です。首都圏の市民がいくら努力しても、再エネ100%にはなりません。たとえ全東京都民が自宅やマンションの屋根に太陽光パネルを設置しても、ボリューム的に電力をすべて賄うことはできません。地方で発電した再エネの電気に頼るしかないのです。水は、川の上流から下流へ流れ、その恩恵を都市部の住民は受けています。電気も同じです。地方で発電した電気を、都市部で暮らす人たちが使う。福島の原発もそうでした。つまり、電力供給地の恩恵を受けているわけです。そうした事情も、再エネを推進する電気小売事業者の側が、外に向けてアピールすべきです。そこはまさに、パルシステムさんの出番じゃないですか!

さくらソーラー(福島県双葉郡富岡町) パルシステムでんきの発電産地のひとつ。福島第一原発から7kmの場所にあり、東日本大震災による原発事故のために住民は避難を余儀なくされ、農地は作物を作れない状態に。この遊休地を有効活用してソーラーパネルを設置し、発電事業をスタート。地域の復興に貢献しています。
―― おっしゃるとおりですね。これからも地道に発信を続けていきます。
たとえば、発電と農業を同時に行う「ソーラーシェアリング」は、将来性のある取り組みではないでしょうか。全国各地に生協組織があるので、地方と都市の枠組みをこえた連携も考えられます。エネルギー問題に関心の高い組合員も多いはずですし、生協の電気小売事業者ゆえの厚い信用を私も感じています。地方の再エネ発電に積極的に参画し、より多くの市民に電気を届けることを期待しています。
―― パルシステムは、今後も各地の発電産地とのつながりを強めていきます。再エネへの力強いメッセージをいただき、ありがとうございました。