きぼうのでんき2025年9月号

エネルギーの地産地消は
私たちに自由をもたらす

福島の里山で小規模バイオマス発電に人生を捧げるあるドイツ人の夢

オスカー・バルテンシュタインさん

オスカー・バルテンシュタインさん
発電産地「独楽矢祭」(福島県白川郡矢祭町)

日本に豊富にある再生可能エネルギーに着目し、ここ福島県矢祭町にあった廃校となった小学校に発電所を設立。 地元の間伐材を木質チップにして乾燥・ガス化させて発電する「木質バイオガス」で電気をつくっています。

「本当に日本の人のために必要なこと」

福島県の最南端、のどかな里山である矢祭町で廃校となった小学校の一角に、その「発電所」はあります。発電所名は「独楽矢祭」。「どくらくやまつり」と読みます。

「使うほど楽しくなる再生可能エネルギー。それは誰にも左右されない、独立した自由な電気…そんな意味を込めてます」

と発電所名の由来を教えてくれたのは、独楽矢祭の代表、オスカー・バルテンシュタインさんです。「あ、"独"にはドイツ生まれという意味もありますね」とも付け加えてくれました。故郷のドイツを離れて40年ほど前に来日し、「本当に日本の人のために必要なこと」は何かを考え抜いた結果、バイオマス発電の発電所を運営するエコライフラボを設立した、といいます。本当に日本の人のために必要なこと。壮大で哲学的な言葉をごく自然に口にするバルテンシュタインさんは、もともと人工知能と機械工学を専攻する東京大学の工学博士。東京湾のアクアラインや橋の作成にも従事していたものの、「これは自分の信念とは違う仕事だ」と、ここ矢祭町に拠点を移した、というのが事の経緯でした。

身の回りの「熱」をどう使い切るか?

バルテンシュタインさんの口癖は「熱を有効活用する」。身の回りで常に生まれる「熱」という存在を、いかに暮らしの中に取り込み、余すところなく使い切るか…そのことがいつも頭の中を駆け巡っています。

「地域でゴミを燃やして生まれるエネルギーを電気と熱に変換する。電気は売ったり自分たちで使ったり、熱は地域へ供給されて暖房の熱源にもなる。ヨーロッパではポピュラーなことです」

実際、この発電所で生まれた熱の一部は、校舎の土間に敷設したパイピング暖房に温水として供給、暖房の熱源にもなっています。「乾燥切削チップを集めるフォークリフトはこの学校の壁面に貼られているソーラーパネルだけで動かしてもいますよ」

杉のチップを活用したバイオマス発電

杉のチップを活用したバイオマス発電

地域の森林資源を有効活用した持続可能な発電システム。

世界の平穏につながる「エネルギーの自給自足」

興味深いのはその「規模」。屋外に置かれた木材チップを貯蔵するサイロ、チップ燃料を乾燥させる乾燥機、そして発電のもととなる水素と一酸化炭素に分離させるガスエンジンが置かれた教室一つ分にも満たないスペース(横10m×高さ2m強×奥行2mほど)。それが「発電所」のすべて、です。

機能性が凝縮されたドイツ製の発電機

機能性が凝縮されたドイツ製の発電機

コンパクトながら高効率な発電を実現する最新技術。

「拍子抜けするぐらいのコンパクトさでしょ? 管理もほとんど手間なんてかからないです。朝ここにきて、チップの供給を手でくべるぐらいですから」

「再エネは本来、ニッチな世界。ごく小さな発電所の集合体です。でも、だからこそよいのです。それらを複合的に組み合わせることで、結果大きなエネルギーとなる。日本にはそのポテンシャルがあるし、その探求が世界の不条理を解決することにもつながるのです」バルテンシュタインさんに一貫して流れるテーマは「エネルギーの自給自足」。ひとりひとりの身の丈に合ったエネルギー、「熱の有効活用」の積み重ねが、世界に平穏をもたらす、という持論です。

「電力会社から電気を買わない、ということは、石油依存から脱却することを意味します。化石燃料に依存しないで済むなら、原油を背景に未だ戦争を続ける国々に"戦争に利用されるお金"を払わないで済む。再エネの探求は、結果的に世界平和に寄与することになる、ということです」

地域内でエネルギーと経済を循環させる

バルテンシュタインさんが話している様子

「私がここで発電事業を進めていくうえで現在、困っていることはなにもありません。強いて言えば、日本の許認可制度があまりに複雑で、大手電力会社の思惑に常に左右されることぐらいでしょうか」と皮肉交じりにバルテンシュタインさんは苦笑します。

「それって、自由じゃないでしょ? でもそのこと自体に日本人の多くは気づいてもいない」

当たり前のように、大手会社から供給されるエネルギーに依存している生活。しかし、視点を変えれば、日本には豊富な森林資源がある。木質バイオマス発電があれば熱と電気を生産することができ、いまと変わらない生活を不自由なく送ることができるのに。次第に、なぜバルテンシュタインさんが一見、何もないように見える矢祭町で小規模なバイオマス発電に生涯をかけるのか、その理由がわかってきます。

「地域内でエネルギーが地産地消できれば、地域内でエネルギーと経済が循環していく」
循環型まちづくりのビジョン

ここ矢祭町でも、年間およそ数億円の電気代と燃料代が電力会社・ガス会社に支払われています。ここに、木質バイオマス発電による循環システムをつくり、町民自体が運営する。電気代などにかかっていた費用は乾燥切削チップ代や木質バイオマス発電機の点検などの人件費に充てる。そうすれば、お金も町内で循環できるようになる――それこそが、自立した循環型のまちづくりになる。それが、バルテンシュタインさんの夢です。

発電産地「独楽矢祭」の取り組み

所在地:福島県白川郡矢祭町

発電規模:45kW(約50軒分の電力供給)

燃料:福島県南部・茨城県産の杉チップ

特徴:熱と電気の両方を有効活用する地域循環型システム

地域の豊かな森林

地域に豊富にある森林資源が、持続可能なエネルギーと地域経済の循環を支えています。

燃焼後に残る炭の有効活用

燃焼後に残る炭は良質の肥料として活用

燃焼後に残る炭は、地域の農家が良質の肥料として活用している。