エネルギーの地産地消は
私たちに自由をもたらす
福島の里山で小規模バイオマス発電に人生を捧げるあるドイツ人の夢
オスカー・バルテンシュタインさん
発電産地「独楽矢祭」(福島県白川郡矢祭町)
日本に豊富にある再生可能エネルギーに着目し、ここ福島県矢祭町にあった廃校となった小学校に発電所を設立。 地元の間伐材を木質チップにして乾燥・ガス化させて発電する「木質バイオガス」で電気をつくっています。
「本当に日本の人のために必要なこと」
福島県の最南端、のどかな里山である矢祭町で廃校となった小学校の一角に、その「発電所」はあります。発電所名は「独楽矢祭」。「どくらくやまつり」と読みます。
と発電所名の由来を教えてくれたのは、独楽矢祭の代表、オスカー・バルテンシュタインさんです。「あ、"独"にはドイツ生まれという意味もありますね」とも付け加えてくれました。故郷のドイツを離れて40年ほど前に来日し、「本当に日本の人のために必要なこと」は何かを考え抜いた結果、バイオマス発電の発電所を運営するエコライフラボを設立した、といいます。本当に日本の人のために必要なこと。壮大で哲学的な言葉をごく自然に口にするバルテンシュタインさんは、もともと人工知能と機械工学を専攻する東京大学の工学博士。東京湾のアクアラインや橋の作成にも従事していたものの、「これは自分の信念とは違う仕事だ」と、ここ矢祭町に拠点を移した、というのが事の経緯でした。
身の回りの「熱」をどう使い切るか?
バルテンシュタインさんの口癖は「熱を有効活用する」。身の回りで常に生まれる「熱」という存在を、いかに暮らしの中に取り込み、余すところなく使い切るか…そのことがいつも頭の中を駆け巡っています。
実際、この発電所で生まれた熱の一部は、校舎の土間に敷設したパイピング暖房に温水として供給、暖房の熱源にもなっています。「乾燥切削チップを集めるフォークリフトはこの学校の壁面に貼られているソーラーパネルだけで動かしてもいますよ」
杉のチップを活用したバイオマス発電
地域の森林資源を有効活用した持続可能な発電システム。
世界の平穏につながる「エネルギーの自給自足」
興味深いのはその「規模」。屋外に置かれた木材チップを貯蔵するサイロ、チップ燃料を乾燥させる乾燥機、そして発電のもととなる水素と一酸化炭素に分離させるガスエンジンが置かれた教室一つ分にも満たないスペース(横10m×高さ2m強×奥行2mほど)。それが「発電所」のすべて、です。
機能性が凝縮されたドイツ製の発電機
コンパクトながら高効率な発電を実現する最新技術。
「再エネは本来、ニッチな世界。ごく小さな発電所の集合体です。でも、だからこそよいのです。それらを複合的に組み合わせることで、結果大きなエネルギーとなる。日本にはそのポテンシャルがあるし、その探求が世界の不条理を解決することにもつながるのです」バルテンシュタインさんに一貫して流れるテーマは「エネルギーの自給自足」。ひとりひとりの身の丈に合ったエネルギー、「熱の有効活用」の積み重ねが、世界に平穏をもたらす、という持論です。
地域内でエネルギーと経済を循環させる
「私がここで発電事業を進めていくうえで現在、困っていることはなにもありません。強いて言えば、日本の許認可制度があまりに複雑で、大手電力会社の思惑に常に左右されることぐらいでしょうか」と皮肉交じりにバルテンシュタインさんは苦笑します。
当たり前のように、大手会社から供給されるエネルギーに依存している生活。しかし、視点を変えれば、日本には豊富な森林資源がある。木質バイオマス発電があれば熱と電気を生産することができ、いまと変わらない生活を不自由なく送ることができるのに。次第に、なぜバルテンシュタインさんが一見、何もないように見える矢祭町で小規模なバイオマス発電に生涯をかけるのか、その理由がわかってきます。
ここ矢祭町でも、年間およそ数億円の電気代と燃料代が電力会社・ガス会社に支払われています。ここに、木質バイオマス発電による循環システムをつくり、町民自体が運営する。電気代などにかかっていた費用は乾燥切削チップ代や木質バイオマス発電機の点検などの人件費に充てる。そうすれば、お金も町内で循環できるようになる――それこそが、自立した循環型のまちづくりになる。それが、バルテンシュタインさんの夢です。
所在地:福島県白川郡矢祭町
発電規模:45kW(約50軒分の電力供給)
燃料:福島県南部・茨城県産の杉チップ
特徴:熱と電気の両方を有効活用する地域循環型システム
地域の豊かな森林
矢祭町の豊かな森林資源
持続可能なエネルギー源
地域に豊富にある森林資源が、持続可能なエネルギーと地域経済の循環を支えています。
燃焼後に残る炭の有効活用
燃焼後に残る炭は、地域の農家が良質の肥料として活用している。