独楽矢祭(福島県東白川郡矢祭町)
日本では「熱」が無駄に捨てられている
「熱をね、獲っておきたいんですよ。いつもね、もったいないなあって思っちゃう」と語るのは、ドイツ製のバイオマス発電用プラントを日本各地に広めようと奔走するバルテンシュタインさん。
日本人は無駄にエネルギーを空気中に放出していることに、あまりに無自覚であるといいます。
日本は“資源のない国”であることは自覚していますよね。でも発電に使っている化石燃料から生まれる熱の2/3は捨てているって知ってました?発電に限らず、日本各地の工場のどこでも、発生する熱の多くは空気中や海中に“捨てられている”んです。
新エネルギーの先進国、ドイツに生まれ育ったバルテンシュタインさんには“いかに効率よく、いかに無駄なくエネルギーを得るにはどうすれば”という視点で常に考えてきました。
国を越えて、ともに未来を考える
私が福島県矢祭町に注目したのも、ここに貴重なエネルギーがあふれていることがすぐにわかったからです。かつては林業の町として栄えた矢祭町も、高度成長期以降はその衰退に伴って過疎化が進んでいました。東日本大震災による原発事故で、茨城県境のこの町も実害と風評の被害にさらされました。
でもこの一帯には豊かな未利用材があり、チップ工場もあり、幸い放射能汚染の被害もほとんどなかった。そして3年前に町内の小学校が統廃合されるにあたって、この校舎を活用することが叶ったんです。
母国から、排熱でチップを乾燥させガス化する最新の発電機を持ち込み、山林から杉を中心とする間伐材を次々に持ち込んでは電気を作っています。
この町がいいのは、住民に“来る者拒まず”なオープンな気風があること。こんな風貌の外国人が怪しげなことを日々やっているのに、興味深そうに訪ねてくる。私も人が好きだからすぐに仲良くなる。校庭の桜の下では、春には電気を作りながら町民たちと花見ですよ。
バルテンシュタインさんの口癖は「意識とともに知識をシェアしたい」。復興を願う小さな町が、本来の再生を獲得するには、眼差しは常に世界に向いていなければならない、と訴えます。
「私たちの持つ技術を共有しながら、どうやったら未来のエネルギーを自給自足できるのかを日本の人たちと考えていきたい」― それが国を越えてバルテンシュタインさんが夢見る、共生できる社会の未来型のようです。