きぼうのでんき2026年9月号

♨️ 温泉は、地域を救う! ♨️

地熱発電×震災復興×地域活性
元気アップつちゆ 福島県土湯温泉
土湯温泉のトレードマークこけし

こけしは土湯温泉のトレードマーク

大震災と原発事故で観光客が激減

福島市内から車で30分ほど。吾妻連峰の中腹にあるひっそりと佇む温泉地、土湯温泉は開湯が1400年以上前と伝えられ、単純泉から硫黄泉、炭酸水素塩泉など様々な泉質を楽しめる湯治場として親しまれていました。

加藤貴之さん(土湯温泉観光協会会長/元気アップつちゆ代表)
「多くの観光客に愛され続けてきたものの、時代と共に住民も年齢を重ね、今や高齢化率50%を超える限界集落です。故郷をよみがえらせるには、このままぼーっとしていてはダメなんです」

観光協会の会長職として、小さな温泉場を盛り上げようと奔走しています。かつて土湯温泉には、年間で40万人近い観光客が訪れていました。しかし2011年の東日本大震災と原発事故の影響もあり、一時は27万人にまで激減。

加藤さん
「当時はまだ前社長が第一線で故郷の復興に努め、私はそんな彼の背中を追いながら試行錯誤を繰り返していました。そのとき挑戦をはじめたのがバイナリー発電だったんです」
山間に佇む土湯温泉街

山間に佇む土湯温泉街

10種類以上の源泉が湧き出る

10種類以上の源泉が湧き出る

温泉と共存する地熱発電

豊富な源泉を多く持つ土湯温泉。原発事故を契機に改めてエネルギーの在り方が見直されたとき、地元が持つ温泉資源を使って地熱発電による再生可能エネルギーを復興の事業として興せないか、と考えたのです。

しかし、ひとつ大きな懸念がありました。それは、一般的に地熱発電が普及しない理由に、地域住民から「発電に使った温泉をそのまま入浴に使うわけにはいかない」という反対意見があげられていたこと。

高温の温泉による蒸気の力でタービンを回し発電したあと、温泉の熱が奪われてぬるくなってしまったり、泉質や湯量が変わるリスクがあり「リスクを抱えたまま下流域の温泉街に流れると、温泉地としての本来の価値が下がってしまい困る」というわけです。

そこで加藤さんが見つけ出した答えが、地熱発電方法のひとつ「バイナリー発電」でした。「バイナリー」とは「2つの」という意味。こと発電においては「2つのサイクルを組み合わせて発電すること」とされています。

♨️ 再エネが、故郷の復興と活性を支えています ♨️
エビ養殖、年間2万匹!

第1のサイクルとなる「温泉の熱源」を使いつつも、第2のサイクルとして「温泉の熱で温められたペンタンという液体によって発生した蒸気」によってタービンを回します。文字通り「バイナリー」な発電。直接、タービンと接触することなく、温泉は源泉のまま各旅館の浴場へ給湯されていきます。

加藤さん
「既存の源泉(約130℃)を利用するので、湯量や泉質に影響を与えません。丁寧な説明の甲斐あって地元のみなさんにも理解を得ることができ、さらには"温泉を使ってもっと何かできないだろうか?"という話にもなったんです」

それで考え出されたのが「発電時に使用した冷却水を生かしたエビ養殖」でした。

温泉街からさらに源泉を辿った山間、バイナリー発電機へ至る山道の途中にその"養殖場"はあります。発電機の冷却用に使用して温まった湧水を再利用し、熱帯に生息するオニテナガエビの養殖に成功します。光熱費をかけずに育てられたえびは、今や温泉街の人気の体験コンテンツになっています。

加藤さん
「釣り体験だけで年間2万匹を出荷するまでになりました。温水の一部は、冬季の歩道や展望デッキの融雪にも活用されています。得られたエネルギーは使い倒す!ですね(笑)」
土湯温泉観光協会の加藤舞さん

土湯温泉観光協会の加藤舞さん「バイナリー発電所にご案内したことがきっかけでリピーターになる方がたくさんいらっしゃるんです!」

いま地域に必要なのは「若者、バカ者、よそ者」

発電事業そのものは、地元出資で立ち上げた町づくり会社「株式会社元気アップつちゆ」が運営を牽引し、観光協会は温泉地としての価値創造を次々展開していくパートナーに。年間約1億円規模に及ぶ売電収入の一部は、エビ以外にもどぶろくなどの名産品開発に活用され、コロナ禍では年間17万人まで観光客の数が減少するも、今(2026年現在)は30万人の観光客が訪れる温泉地になっています。

加藤さん
「さらに福島市内と結ぶ路線バスへの乗車補助や地元の子育て支援、街並み整備にも活用するなど、電気のおかげでこの温泉街は復興することができたんです」

加藤さんたち土湯温泉が取り組む「再エネ×温泉復興」は、その先進地として行政や企業、教育機関からの視察や研修旅行も相次いでいるといいます。加藤さんは、そのキーワードを「若者、バカ者、よそ者」と言います。

加藤さん
「限界集落とも言われる山間部の集落が生き残っていくためには、外から、斬新なアイデアを持つ若い方々にも来てもらえるような魅力あるコミュニティづくりを常に心がけなければなりません。この"よそ者事業"は、単なる宿泊観光だけではなく、環境学習やSDGs体験を組み込んだ新しい観光需要にも目を向けながら、自分たちが持つ価値はなんだろう? を常に自問し続ける毎日です」

源泉の熱を損なわない売電収入と新事業を生み出した土湯温泉。パルシステムでんきを利用しながら、これからも注目したい発電産地です。

温泉の熱を使って発酵させた納豆もお土産として大人気

温泉の熱を使って発酵させた納豆もお土産として大人気

空き家をリノベーションし、外部からの起業者も招き入れている

空き家をリノベーションし、外部からの起業者も招き入れている

加藤貴之さんと鈴木諒夢さん

加藤貴之さん(写真左)と、2026年に観光協会に赴任したばかりの鈴木諒夢さん。「温泉と発電、そしてエビに発酵グルメ。なかなか他では見られない魅力がたくさんです。私自身、地元に眠る価値をもっと掘り起こしたいです!」(鈴木さん)