牛たちが導く地域の脱炭素化
バイオガス発電所の新たなチャレンジ
左から田中畜産 会長 田中清さん、東北おひさま発電 代表取締役 後藤博信さん、田中畜産 社長 田中清人さん
東北おひさま発電株式会社 ながめやまバイオガス発電所(山形県西置賜郡飯豊町)
肉牛の牛ふんを使って電気をつくる――。当初、畜産農家から非常識とも思われたアイデアでしたが、山形県のながめやまバイオガス発電所が果敢に挑み、パルシステムでんきの発電産地として約5年間、電力を供給してきました。すっかり軌道に乗ったその手法は畜産農家をはじめ各方面から注目浴び、日本のCO2削減のモデルケースともいえる「脱炭素先行地域」に選ばれました。2026年さらなる進化を遂げる、畜産農家のチャレンジを伺いました。
米沢牛の飼育風景
約1000頭の牛が「つなぎ飼い」で育てられている。
畜産農家、長年の問題を再エネ発電が解決
――2020年にながめやまバイオガス発電所が開設されてから約5年。改めて、発電所がスタートした背景を教えてください。
後藤日本三大和牛のひとつともいわれる米沢牛は、ほかのブランド牛よりも長い生後33カ月もの時間をかけて育ててから出荷します。その間の畜産農家さんのご苦労は非常に大きく、とくに1頭あたり1日約30kgも出る排泄物の処理は長年の課題でした。田中さんの米沢牛は、肉質に加えて頭数も地域でトップクラス。今、育てているのは何頭くらいでしたか?
田中清人発電所を開設した5年前は約650頭、今では約1000頭ですね。
後藤排泄物が1頭あたり1日約30kgとして、約1000頭だと今は30tという膨大な量に。以前は産業廃棄物でもある牛ふんをいろいろな手間をかけながら堆肥にしてきましたが、一般的だった空気を好む菌を用いる「好気性発酵」から、空気を嫌う菌を用いた「嫌気性発酵」に転換したことが、ここでの発電方法の大きなポイントなんです。
バイオガス発電の原料となる牛ふん
1日約30tの膨大な量が処理される。
田中清今までとにかく堆肥処理に苦労していましたからね。その心配がなくなって本当によかった。これまでの3、4頭ずつのグループに分けて囲った「桝(ます)飼い」から全部の牛をずらっと一列に並べる「つなぎ飼い」にしたり、牛舎内の敷材を発酵に向いた素材に変えたりしても、牛たちはむしろのびのびしているよ。
田中清人肉質としてもA5ランクを保てています。牛を育てるための電気もまかなえているので、成功したと言っていいと思います。
――画期的な転換だったのですね。発電の仕組みとしては、牛ふんの発酵により発生するガスを使って、電気を作る。そのあとは?
後藤水分量が多い原料を発酵させてガスを発生させたあとには液状の肥料(液肥)が残るんですね。これは農業に活用することができます。手探りながら新しい方法で排泄物処理をし、エネルギー(電力)を回収する、環境も保全できる、そしてこれまでと同様に畜産と農業のつながりを実現できるという今の仕組みに確信を持てるようになりました。
田中清当初は不安も大きかったよね。同業者からも「田中畜産は終わった」なんて言われて。今ではみんなうらやましがっているよ(笑)。
田中畜産での取り組みが広がりを見せる
――まさに資源循環! 元から地域の中心産業のひとつだった畜産農場が、よりオープンで暮らしに身近な存在になりつつあるように感じました。
――環境省により「脱炭素先行地域」に選定されたのにはそんな背景もあったのですね。具体的な取り組みを教えてください。
後藤田中さんほどの規模の畜産農家さんは、飯豊町はもちろん隣の米沢市にも少ないですが、規模の大小に関係なく、どの畜産農家も排泄物処理の方法や環境負荷の問題はあります。それを解決に導けないかと、自治体をまたいで米沢市と連携することになりました。
それが、地域の畜産農家さん約60軒分の排泄物をすべて1カ所に集めて発電所に運び原料として使うという、いわゆる「オフサイト型※1」という仕組みです。この地域全体で米沢牛の肥育から出荷までの一連の流れの中で「脱炭素化」を進めることによって、米沢牛そのものの価値も上がると考えています。
それが、地域の畜産農家さん約60軒分の排泄物をすべて1カ所に集めて発電所に運び原料として使うという、いわゆる「オフサイト型※1」という仕組みです。この地域全体で米沢牛の肥育から出荷までの一連の流れの中で「脱炭素化」を進めることによって、米沢牛そのものの価値も上がると考えています。
――先ほど、大きなトラックで大量の食品残渣を運び込んでいましたが、これもプロジェクトに関係があるそうですね。
後藤はい、牛ふんに混ぜて発電を効率よくしているんですよ。食品加工の残渣物といっても、例えば茶葉の出し殻、果物の絞りかす、お菓子屑、地元の酒蔵から出た酒かすや焼酎かすなど、糖度の高いものを中心に集めて、牛ふんと組み合わせて発酵させます。すると発酵力が高まり、ガスの量が増えて発電量も増えるんです。牛ふんだけではなく、この地域内で出るさまざまな"食品残渣"を活用してエネルギーに変えることができますよね。ちなみに、何をどんな配分で混ぜるのがよりよいかの"レシピ"は試行錯誤してようやくでき上がりつつあります(笑)。
そして、発酵・発電後に残る液肥。冬に雪深くなるこの地域では散布することができません。でも牛ふんは毎日出るから貯蔵施設に溜まる一方。ですから液肥を濃縮乾燥してペレット(粒)状に加工し、保管や運搬ができるようにもしました。これなら他の地域で活用してもらえます。
そして、発酵・発電後に残る液肥。冬に雪深くなるこの地域では散布することができません。でも牛ふんは毎日出るから貯蔵施設に溜まる一方。ですから液肥を濃縮乾燥してペレット(粒)状に加工し、保管や運搬ができるようにもしました。これなら他の地域で活用してもらえます。
チャレンジできるのは5年前の決断のおかげ
3人による対談の様子
地域の脱炭素化について熱く語り合う3人。5年前の決断が今日の成功につながっている。
――まさに資源循環! 元から地域の中心産業のひとつだった畜産農場が、よりオープンで暮らしに身近な存在になりつつあるように感じました。
後藤田中さんのケースで我々もそこから学ばせていただき、ほかの畜産農家さんたちからの「自分たちも参加したい」という期待にも応えたいと考えた結果でもあります。また、全国から年間約2000人の方々が見学に来ます。
田中清畜産業関係者はどんなふうに牛舎の設備や資材を変えたかが知りたいみたい。
後藤やっぱり、田中さんに決断してもらえたのが大きいんです。伝統的な肥育の仕方、施設や資材などへの新たな投資の発生も含めて、非常に多くのことを考え、重い決断をしなくてはいけなかったと思います。そして、今度はその決断を引き継いだ新社長がいます。若い人のチャレンジはとても刺激になります。
田中清人じつは今、新しい挑戦として牛のげっぷをなくそうとしているんです。
――CO2が発生するという理由で問題視されているげっぷですか?
田中清人牛がげっぷを出すのは消化が十分ではないから。だったら、消化を促進する飼料を与えて、げっぷをなくそうという考えで、現在は実証実験の段階です。ゆくゆくは"ゼロカーボン牛※2"として商品化もめざしていますよ。
後藤その飼料を育てるのには、もちろんこの発電所から生まれた肥料を使いますよ(笑)。
新たな取り組みに不安はないかと尋ねると、まったくないと答えた清人さん。力強いその目には、清さんから引き継いだチャレンジ精神が宿っているようでした。
※1 オフサイト型:発電所の敷地外から原料を収集して処理する方式。地域の複数の畜産農家から排泄物を集めて一箇所で処理することで、効率的な発電と地域全体の環境負荷軽減を実現する。
※2 ゼロカーボン牛:牛の消化を改善する飼料を与えることで、メタンガスを含むげっぷの発生を抑制し、温室効果ガスの排出を大幅に削減した牛のこと。畜産業における脱炭素化の取り組みの一つ。