きぼうのでんき2026年10月号

🌡️ 酷暑下での農業を再エネは救えるか? 🌡️

毎年厳しさを増す「酷暑」。いま農業の現場では、酷暑の影響で何が起きているのか?過酷な状況を挽回するため、できること、考えるべきことはなんでしょうか?

急峻な坂が続く産直産地の無茶々園

急峻な坂が続く産直産地の無茶々園(愛媛県)

刈っても刈っても生え続ける雑草
宇都宮幸博さん(無茶々園代表理事)
「自分のところの仲間ではないですが、同じ愛媛県内のみかん農家が、熱中症で亡くなったことがありました」

そう語るのは、パルシステムの産直産地、無茶々園の宇都宮幸博さん。現役のみかん農家であると同時に、無茶々園の代表理事(理事長)も務める農家たちのまとめ役です。

酷暑はとくにここ数年が顕著で、みかん栽培の最適地であるが故の急傾斜地ばかりの園地(果樹園)にあって、生え続ける雑草刈りは年々重労働となっているといいます。

宇都宮さん
「数十キロある草刈り機を抱え、足元が不安定な斜面の草をひたすら刈ります。数日かけて一通り刈っても、刈り始めたところからすでに雑草が生えてきている、そんなイタチごっこなんです」

「しかも面倒だからと草刈りを怠ると、茂みにイノシシなどが生息して獣害を誘発するんです」

急斜面の労働の辛さに、酷暑が追い打ちをかけている
急斜面の労働の辛さに、酷暑が追い打ちをかけている

急斜面の労働の辛さに、酷暑が追い打ちをかけている

「熱中症にはしょっちゅうなってます」

宇都宮さんは、熱中症は決して特別なことでも、防ぎきれるものでもない、と言います。

宇都宮さん
「農家って、つい頑張ってしまう生き物なんです。今日はあの向こうまでなんとか刈ってしまおう。そうすれば園地をきれいに保てて、害虫の発生も抑えられて、おいしいみかんづくりができる、って考えるんです。でも、それが間違いのもと」

次第に全身が倦怠感に襲われ、頭が朦朧とする。「あ、ヤバイかな」と思ったときはすでに遅い。「救急車を呼んだ方がいい」と宇都宮さん。「軽度の熱中症ならしょっちゅうなってますよ」と苦笑します。

宇都宮さん
「おいしいみかんを作るために命をかけている意気込みはありますが、でも暑さに倒れて命を失うようなことはあってはいけない。自分は農家たちのまとめ役です。みんなの命を守らないといけないんです」

いつまで農業が続けられるのか?

1898年以降で上昇傾向が続いているという、日本の夏季平均気温。2024年夏(6~8月)の気温偏差は+1.76℃、2023年と並び観測史上最高でしたが、翌年の2025年夏の日本の平均気温偏差は実に+2.36℃。今年(2026年9月現在)も同水準が予測されます。

📊 高温障害の実態
  • トマトやいちごの着果不良:全国平均で4~5割
  • みかんの着果不良:西日本で5~6割
宇都宮さん
「代々継いできたおいしいみかんをこれからも作り続けられるのか、不安は消えません」

地域を守るため
食とエネルギーは調和できるだろうか?

農産物を作りながら、地球温暖化にあらがう

酷暑の最大の原因は気候変動――地球温暖化であることはほぼ疑う余地はありません。国連の政府間組織も「人間の影響(温室効果ガスの排出)が地球を暖めてきたことは疑う余地がない」と断定しています。

それは石炭・石油・天然ガスといった化石燃料を燃やすことで発生する二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスが、常に地球上に排出され続けてることを意味しています。

全体の約6割超を化石燃料を使う火力発電に依存している日本。そのことと、宇都宮さんたちの農家の生産活動を揺るがしていることとは、決して無縁ではありません。

そんななか、農産物を作りながら、地球温暖化にあらがう行動をしたい、という農家も各地に生まれています。長野県飯綱町の山間部で、りんご農園を広く手掛けている産直産地、アップルファームさみずの山下一樹さんも、そんなひとりです。

丘陵地にりんご園が広がる産直産地のアップルファームさみず

丘陵地にりんご園が広がる産直産地のアップルファームさみず(長野県)

既存の支柱を活用してソーラーシェアリング?

今年6月に、山梨県南アルプス市にソーラーシェアリング(営農型太陽光発電。農地に支柱を立てて上部に太陽光パネルを設置し、農業と発電を同時に行う仕組みのこと)の発電所を構える、パルシステムの発電産地、環境ネットワークを視察した山下さん(詳細は「月刊きぼうのでんき」8月号参照)。

実際にブルーベリーやシャインマスカットを栽培し、地元に出荷している取り組みに触れたことで、山下さんは帰宅後もずっとそのことを考え続けていました。

山下一樹さん(アップルファームさみず)
「いまの園地に新たに太陽光パネルとその建屋を建てるのは、手間もコストも現実味はありません。でも、既存の支柱(りんごの木を支える基本的な柱)をうまく活用すれば可能かもしれません」

近年では、酷暑でりんごの「日焼け(果皮が白・黒く変色して商品価値が落ちる現象)」が深刻化している地域もありますが、海外の先行研究では、太陽光パネルの適度な遮光でりんごの木の水分ストレスが約60%軽減された事例も。

山下さん
「酷暑や後継者不足で農業そのものの持続性が危ぶまれているいまの農業にあって、電気をつくることは新しい可能性を切り開いてくれるかもしれない。そのことに期待しています」

いま農業現場のあちこちで挑戦が始まりつつある太陽光発電。食とエネルギーの調和は、これからの農業を救うチャンスになるかもしれません。

発電産地の環境ネットワークを訪ねた山下さん

発電産地の環境ネットワーク(山梨県)を訪ねた山下さん。先駆者の挑戦に、農業の可能性を見いだせたか――?

広がる太陽光発電の可能性

無茶々園ではあまりの傾斜地であることからソーラーシェアリングは現実的でないですが、実は無茶々園の事務所(廃校となった小学校をリノベーションして活用)の屋上には、パルシステムが取り組む地域助成金を活用して設置された太陽光パネルがあります。

宇都宮さん
「発電した電気を売電して得た収入を、組織の運営費に充てています。園地に縛られず、事業運営という視点でみれば、再エネの活用ってもっと可能性があるかもですね。少なくとも化石燃料は浪費しなくていいですしね!」

広がる太陽光発電の可能性
広がる太陽光発電の可能性

廃校をリノベーションした無茶々園の事務所屋上に設置された太陽光パネル

🌊 気候変動は、海の世界でも! 🌊

北海道のサケは絶滅寸前?

気候変動の影響は、パルシステムの産直産地では農業だけでなく、水産の分野でも問題化しています。

例えば、北海道自体の秋サケ漁獲量は、この20年ほどの間に約5分の1~6分の1にまで激減。2026年秋の最新予測では、さらに半減となる364万5,000尾しか北海道に戻ってこない見通しともいわれ、全盛期(2000年代前半)に比べると、10分の1以下という壊滅的なレベルです。

原因は地球温暖化によって生じた「稚魚が海に慣れる時期の高水温」や「北太平洋のサケの餌(プランクトン)の減少」など、海全体の環境が変わってしまったためと言われます。

人間の知恵で環境変化に負けない漁業へ!

『コア・フード野付の秋鮭スモークサーモン』や『野付の産直いくらしょうゆ漬け』で知られるパルシステムの産直産地、野付漁業協同組合もその矢面にたっていますが、もう一つの主力商品である『コア・フード野付の産直ほたて』のほたてでもでも、海面水温の上昇で稚貝(子どもの貝)の成長が妨げられているといいます。

そこで野付漁協はパルシステムとともに、未来を見据えた取り組みを続けています。1988年から続く植樹活動では、森の養分が川を下り海を豊かにするという考えのもと、河川沿いへの植樹を推進。パルシステムも2001年から協議会を設立し、利用者が参加する植樹ツアーを継続し、これまでに植えられた木は1万3,000本を超えました。

また、ほたてを生育している海域全体の水温データをもとに、稚貝が生き残りやすい「冷たい潮が通りやすい場所」や「エサが豊富な場所」を判別。高水温のリスクが低いエリアを選んで放流することで生存率を高めるなど、気候変動に負けない健康で大きなほたてを育む土台となる、環境変化に負けない「資源管理型漁業」推進しています。

野付漁協専務理事の内藤智明さん

野付漁協専務理事の内藤智明さん

組合員も参加した植樹活動は今も続いている

組合員も参加した植樹活動は今も続いている